クルーズ船か、八幡坂か

函館の、あまり知られざる展望台「ともえ大橋」。

駅前の朝市の裏から、この橋に上がって眺める函館山方面の景色は、

10年前、旅行で函館に通い始めたころから、個人的絶景の一つだった。

何がいいか、というと、海に浮かぶ摩周丸。


摩周丸が就航していた青函航路は北洋漁業と並び、

函館の繁栄を形づくった核であり、

わが国近代史においても、唯一無二の存在である。

北海道と本州を行き来する人のほとんどは、

連絡船の乗客となり、自ずと函館を経由した。


世にも高度な、可動橋による貨車積載技術、

戦前は、貴重なエネルギー源だった石炭の輸送も担った。

旧国鉄の青函鉄道管理局が置かれ、その従事者と家族がいるということも、

函館経済を潤していたと聞いている。


その青函航路の忘れ形見が、廃止後も長らく、ここに温存されている。

維持管理も並大抵のことではないはずだろうが、

函館の歴史を語るに、なくてはならない存在なのだ。

しかしここにきて、摩周丸の周囲も、ちょっと様子が違ってきた。

クルーズ船の岸壁が造られる、という話は聞いていたが

すでに去年秋より、一部の供用が始まっているとか。

久しぶりに、ともえ大橋に上がってみると、確かにその姿があった。

ということは、ここにクルーズ船が接岸すると、摩周丸は隠れてしまう。

ビルのような船が来たなら、函館山の眺めも変わる。

一方で、八幡坂上からの景観はどうだろう。

湾をはさんで遠く摩周丸が見え、

その景色がまた、CMなどのロケに使われてきたということもあって

記念写真の撮影名所となってきた。

クルーズ船が接岸すると、当然ながら景色も変わる。

クルーズ船の経済効果もさることながら、

函館は、撮影名所を一つ失うことになりはしまいか。

いや、八幡坂から見下ろすクルーズ船、というのが新たな人気を集めるだろうか。

まあ、公道を歩行者天国と勘違いしたような手合いは、見ていて気持ちいいものではないが

この眺め自体は、捨てがたいものだと思っている。

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