函館に来て10年、時代の回想 真四角の仇花

函館に通い始めたのは、写真を撮るためだった。

西部地区には古い時代の佇まいが温存されていて、それをフィルムに写し取るのは、やはりカメラも古い方が似合っている。

そういう単純な思いから、私よりも年老いた二眼レフカメラを鞄にしのばせ、撮りたい場面に出会ったときだけ、鞄から取り出しシャッターを切った。

二眼レフで撮った写真


二眼レフの特徴は、露出もピントもフルオートならぬフルマニュアルであるから、まずは1枚撮るのに時間がかかることではあるが、それ以上の、そして最大の特徴は上がりが真四角になるということである。

今はインスタグラムのおかげで、真四角写真がある意味、当たり前になってきたが、当時はフィルム時代の末期であり、街角のクリーニング店でも現像の取次をしていたほどお手軽の、35ミリのネガフィルムがポピュラーだった。

その一般的な35ミリフィルムカメラで撮った写真の縦横比は2対3の長方形。写真といえばそれが当たり前だったから、真四角の画面は新鮮だった。35ミリカメラなら画面に収まるはずの左右または上下はカットされる。

しかもそのころはなぜか広角志向の時代であった。ズームレンズにしても、ズーム機能付きのコンパクトカメラにしても、ワイド側はかつてたいてい35ミリだったのが、28ミリまでカバーするものが人気となった。

一方、二眼レフのレンズは、ごく一部を除いて交換のできない固定式で、画角はほぼ35ミリカメラの標準レンズあたりである。

だからますます「撮れる」範囲は限られてくる。換言すれば、撮りたいものだけを絞り込んでフィルムに焼き付けることとなる。

「ここは念のため広めに構えて、周りの景色も入れておこうか」などという保険的発想のきく広角ズームの35ミリカメラと比べて、そういうところが実に潔いと個人的には思っていた。

ただ難を言えば、ブローニーフィルムという35ミリより大判のフィルムを使う二眼レフは金がかかった。

アバウトな数字だが、シャッター1押しでフイルム代100円、現像代も1コマあたり100円程度で、合計約200円。一方、35ミリフィルムはと言えば、現像サービスが価格競争の時代に突入していて、36枚撮りフィルム1本の現像代と同時プリント各1枚がついて500円ほどという店もあった。

そういう経済的理由からではなく、好奇心の方が勝っていたが、よくよく探せば大昔に真四角写真の撮れる35ミリカメラが存在していたというので、知るや早々、オークションで落札した。「タクソナ」というカメラで、実にコンパクトだった。

一般的な35ミリカメラで1コマのサイズは縦24ミリ×横36ミリだが、タクソナは24ミリ×24ミリ。だから36枚撮りフィルムで48枚撮れるという計算になる。

ただ500円の同時プリント店に受け入れてもらえるかは定かではなかったが、自分はたいていモノクロネガか、カラーポジのフィルムを使うから、そういうことは関係なかった。

実際に使ってみた感触としては、1本48コマを撮りきるのは逆にたいへんで、撮っても撮ってもフィルムがなくならない。経済的なのはいいけれど、もう勘弁してくれよ、という贅沢な不満を抱いた次第。

タクソナで撮った写真


さて、「ローソクは消える間際がいちばん明るい」などという剣豪か文豪の好みそうな話があるが、デジタルカメラに置き換わる手前、つまりフィルムカメラ時代の末期、メーカーはその運命を知ってか知らでか、各社から夥しいほどの新商品が送り出された。

そういう中で名も知らぬ会社から「ブラック・バード・フライ」というカメラが発売された。

外装はプラスティックでデザインもモダンだが、35ミリフィルムで真四角写真が撮れる。タクソナから実に何十年ぶりと言うべきか。

早速ネット通販で入手したものの、フィルム1本通しただけで、放置することとなってしまった。

ブラック・バード・フライで撮った写真


露出制御が晴れか曇りの2段階、造りもあまりにチープであり、そのためかピント精度もいい加減で、決して実用に耐える代物ではなかったからだ。

そうこうするうち、意外にもあっけなくフィルムカメラの時代が終わってしまい、真四角写真にはまっていたころバカみたいにオークションで落札した数十台の二眼レフ中古カメラも、出番がなくなってしまった。

なのにどうしたことか、時代の寵児のようなインスタグラムは、真四角写真が標準形。

もっとも今や、写真なんてスマホがあればカメラはいらず、どんな形にでも画面上で加工すれば済むだけの話。

下の写真は、今回のメインキャスト。左から、ブラック・バード・フライ、タクソナ、よくあったタイプの二眼レフ。迷わずiPhoneで撮影して真四角にカット。撮影コストは、わずかな電気代だけ、というべきか。

幸か不幸か、便利な時代になったものだ。

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